人工呼吸器が必要な遷延性意識障害患者の自宅介護について
日本脳神経外科学会による遷延性意識障害の定義は、
1.自力移動が不可能である。
2.自力摂食が不可能である。
3.糞・尿失禁がある。
4.声を出しても意味のある発語が全く不可能である。
5.簡単な命令には辛うじて応じることもできるが、ほとんど意思疎通は不可能である。
6.眼球は動いていても認識することはできない。
以上6項目が、治療にもかかわらず3か月以上続いた場合に、遷延性意識障害とみなします。
医療関係者ならば「当たり前。」と感じるかもしれませんが、遷延性意識障害患者家族からすると、介護するにあたって大きな問題の項目が含まれていません。
それは、『自発呼吸できるか否か』です。
遷延性意識障害と脳死の違いは、呼吸や心拍などといった生命維持の機能があるのが遷延性意識障害で、脳波がフラットで生命維持装置なしでは生存できない脳死と大きく違います。
つまり、自発呼吸できるか否かは遷延性意識障害としての判定には関係がないのですが、遷延性意識障害に陥るほどの重度の脳機能障害であると、「脳波はあるものの自発呼吸が出来ないので、人工呼吸器が必要。」というケースもままあります。
人工呼吸ありでの介護の重篤さ
遷延性意識障害患者の症状によって、
1.『自発呼吸できないので、常時人工呼吸器が必要』
2.『自発呼吸できているときもあるが、出来ていない時もあるため、人工呼吸器が必要』
3.『自発呼吸が出来ているので、人工呼吸器は不要』
と3つの区分に分かれます。
2のような『自発呼吸できている時もあれば、出来ていない時もある』といった状態の遷延性意識障害患者の場合、患者家族が『呼吸できているときもあるし、人工呼吸器はつけているのは可哀想。外してあげたい。』と思われることがあります。
しかし、人工呼吸器を外す判断は、医師が一回換気量や酸素濃度・換気回数などをモニタリングして行います。
勝手に外してしまうと呼吸困難や低酸素による脳死・窒息死を引き起こしてしまうため、例え家族と言えども勝手に触ってはいけません。
遷延性意識障害患者を自宅で介護する際には、栄養補給のために『胃瘻』や『経鼻栄養』、排便のために『人工肛門』といった処置がとられることがあります。
これらの管理は、保健衛生面からもかなり気を使わなければいけないのですが、それに加えて人工呼吸器の管理まで行わなければいけないため、さらに介護が大変になります。
あまり医学知識のない人ならば、「遷延性意識障害で症状が大きく変わらないし、人工呼吸器をつけっぱなしでも問題がないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、人工呼吸器をずっと装着していると、固定テープで肌が荒れたりかぶれたりする可能性があります。
また、人工呼吸器はわずかな異常でもアラート(警告)が出るため、どんなに体調が安定していても、いつ異常が出るかわからない不安から、介護する側も24時間気が張りっぱなしとなる事もあります。
交通事故で家族が遷延性意識障害となり、自宅介護を検討している方は、そういった現状も理解したうえで考えた方が良いでしょう。
この記事を読まれた方にオススメの情報5選
遷延性意識障害であっても、医学的にリハビリは有効と考えられており、音楽療法やアロマ療法など様々な種類がある。
遷延性意識障害患者が長期入院するには、医療制度から難しい面があるが、長期入院を実施している医療療養型病院もわずかながらにある。
自動車事故対策機構(NASVA)は、遷延性意識障害などの交通事故被害者の援護をする独立行政法人で、療養センターの入所や介護料の支給などの支援をしている。
遷延性意識障害の意識の回復は、目線や小さな変化により気づくことが多いので、介護人は観察力が必要となる。
遷延性意識障害患者を自宅介護する場合には、定期的な受診が必要になってくるが、適切な受診が受けられないこともあるので、退院前に介護計画を念入りに立てる必要がある。