脊髄損傷による介護費用の請求はどこまで認められる?
脊髄損傷の示談交渉でしばしば問題となるのが、将来的な介護費用の請求についてです。
「将来」という未来の事に対しての費用となるため、保険会社としては支払いは少なくしたいと考えますし、被害者や被害者家族からすれば「亡くなるまでの一生、十分な介護を受けられるだけの補償をして欲しい」となるため、話し合いの当初から齟齬を生じやすい内容だと言えます。
保険会社は脊髄損傷となった交通事故の示談で、「脊髄損傷の度合いが大きく、自宅で介護するのは無理ですし、ずっと病院や医療機関に入所するので身の回りのことは看護師がしてくれるから、治療費は認められても介護費用は認められない。病院で介護するとしても奥さんといった身内がされるので、費用は発生していません。それに寝たきりとなった場合、通常よりも寿命が短くなるとの統計もあり、ご主人の脊髄損傷のケースでは、治療費も10年分までです。」と言ったりします。
保険に詳しくない人間ならば、「保険会社が言うことが正しいのだろう」と鵜呑みにしてしまうかもしれませんが、実際には大きな嘘が3つ含まれています。
介護費用は平均余命で算出される
その3つの嘘とは、「病院などの医療機関に入院中は介護費用が支払われない」「妻や子などの親族がした介護に対しては介護費用は支払われない」「寝たきりの脊髄損傷患者の余命が健常者の余命よりも短い」という点です。
「病院などの医療機関に入院中は介護費用が支払われない」というのは大きな嘘で、医師が介護の必要性を認めた場合には、介護費用を請求することができます。
重度の脊髄損傷患者の場合であれば、入院中とはいえ介護の必要が常時あるということですので、病院側から介護人をつけるようにとの指示があることもあります。
「妻や子などの親族がした介護に対しては介護費用は支払われない」ということもありません。
看護師や介護士などを雇った場合には、その実費を請求することができますが、親族が介護をした場合、金銭のやり取りが発生しないため請求できないのではと思うかもしれませんが、請求することができます。
職業介護人の費用よりは低い日額4000円ほどにはなりますが、全く支払われないということはありません。
ただし、これも医師が介護人の必要性を認めた場合に限りますので、ただ単に家族が患者を心配して付添っているという場合には認められませんし、患者の脊髄損傷の程度によっては介護人の必要性自体を否定されることもあります。
「寝たきりの脊髄損傷患者の余命が健常者の余命よりも短い」というのも正しくありません。
脊髄損傷と同等かそれ以上である遷延性意識障害患者の平均余命に対して、裁判所の判断は、「10年といった限定的なものでなく、健常者と同じ平均余命とする」としているため、保険会社の方から限定的に脊髄損傷患者の余命を断ずることはできません。
こうしたことからも、保険会社との示談交渉は難航すると容易に予想できるため、弁護士による示談交渉をお勧めしています。
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医師が脊髄損傷患者の介護が必要と判断した場合、例え身内が介護をしたとしても、介護費用を請求できる。仮に職業介護人を雇った場合も、負担した費用の請求が認められる。
交通事故で脊髄損傷を負い、被害者が介護の必要な状態に陥った場合、将来的な介護費用を請求すれば認められる可能性がある。正当な理由を主張するためにも、弁護士に相談してみるとより安心できる。
脊髄損傷患者を家族が介護をした場合でも、加害者に対して介護費用の請求ができるケースもあり、将来的な介護費用も請求できることがある。
交通事故で脊髄損傷となった患者が車いすを用いて室内移動をするのは困難であるケースがあるため、外出用とは別の移動手段を考慮する必要がある。
脊髄損傷となって自宅介護する場合、職業介護人の費用を保険会社に請求することができるが、容体などによっては介護人の費用が認められないこともある。