内縁の夫の死亡交通事故。保険金の請求はできますか?

【質問】
先月、夫が交通事故で亡くなりました。
便宜上「夫」とは言っていますが籍は入っておらず、いわゆる「内縁の夫」になります。
お互い離婚経験者であったのと、子どものことなどを考え、20年以上一緒に住んでいましたが、結局入籍せずじまいでした。
家計に関してはお互いが正社員として働いていたため、家賃や生活費などは全て折半していました。
死亡事故から1カ月半ほどしてから、加害者の保険会社から連絡が入ったのですが、私が内縁の妻だとわかると、「交通事故の保険金の請求権は内縁の妻にはありません」と電話を切られてしまいました。
今まで内縁の妻として悔しい思いをしたこともありましたが、今までにないほど悔しい思いをして、屈辱にも似た感情を抱いています。
死亡事故にもかかわらず、内縁関係の場合には本当に何も保険金を受け取ることはできないのでしょうか?
【回答】
法律上、婚姻関係、平たく言うと結婚していると、強力な法の保護があります。
一方的な婚姻関係解消の禁止や、相続における配偶者の法定割合の優遇、税制面でも配偶者控除などがあり、配偶者同士で厚遇があります。
しかし、諸事情から入籍という形をとらず「事実婚」という形を選択する方もいます。
いわゆる「内縁関係」というもので、しばしばその立場に対しての論議が裁判の場でも行われます。
法律を四角四面にとれば、内縁関係といっても他人同士ですので、お互いに対して相続権は持っていません。
そのため、死亡事故の保険金は一銭も受け取る権利はないのですが、裁判所も「長い間内縁関係にあった者に対して、一切の補償がないのもおかしい」と限定的に権利を認めています。
1つは残された遺族に対する慰謝料です。
これは交通事故で死亡した本人のための慰謝料はなく、遺族に対する慰謝料になりますので、内縁の妻でも受け取れるものとしています。
もう1つが、内縁関係の相手が死亡したことによる経済的な慰謝料になります。
内縁関係の場合、死亡事故の被害者の逸失利益の請求をすることはできません。
しかし、内縁の夫の給料で内縁の妻が生活している場合などには、内縁の夫に対して内縁の妻が「扶養の請求権」を有していたと考えられます。
そのため、交通事故により扶養の請求権を侵害されたと訴えることで、加害者や保険会社に対して、被害者が支払っていた生活費に応じた保険金の請求をすることができます。
しかし、これらの請求の大前提に「内縁関係であると裁判所が認める」ということがあります。
もし、裁判所に内縁関係が認められない場合には、これらの請求も出来なくなりますので、注意が必要です。
この記事を読まれた方にオススメの情報5選
交通事故という緊急事態では本来の性質が出やすく、不誠実な態度で謝罪のない加害者もいる。憤りを感じても冷静に対処し、十分な損害賠償を受けることに目的を絞ることが大切である。
交通事故の被害者は、自賠責保険に直接請求することができる。このことを、自賠責保険の被害者請求と言う。
通勤中の交通事故では自賠責のほか労災にも保険金を請求できることがある。状況によるが、一般的には労災へ先に申請して、差額を自賠責へ請求することが多い。
交通事故において、相手の保険会社と示談交渉でスムーズに対応するには、弁護士を雇うのが効果的である。加害者側とのやりとりをするという精神的な不安も軽減できるため、専門家の力を借りるべきである。
自動車に無償で同乗する好意同乗であっても、近年では好意同乗を理由に同乗者への減額はされない傾向が高い。
