不完全脊髄損傷で後遺障害が出るケースについて
家族が交通事故に遭って「脊髄損傷を負った。」と聞いたら、「足が麻痺して歩けなくなるの?もしかして全身麻痺?」と不安になるのではないでしょうか?
脊髄は背骨(脊椎)の中を通っている神経で、脊髄が切れてしまうと脳と体の各所との信号が行き来できなくなるため、麻痺が起きます。
さらに厄介なのは、脊髄損傷は自然治癒せず、受傷早期の再生医療のみが有効とされており、その再生医療も治療効果が出るかは個人差があります。
また、再生医療が受けられる期間や症状・医療機関が限られているため、全ての脊髄損傷患者が再生医療を受けられるわけではありません。
つまり、脊髄損傷が起因とする歩行困難や麻痺などの障害が発症した場合、脊髄損傷は自己治癒が不可能なため、障害は一生涯残るということになります。
そのため、脊髄損傷を負った際には、どの程度の後遺障害が身体に発症しているか確認する必要があります。
「脊髄損傷=後遺障害」ではない
では、脊髄損傷を負った際には、必ず後遺障害が出るかと言うと、答えはNOです。
脊髄は脳の付け根から尾てい骨まで通っており、脊髄損傷個所が首に近ければ近いほど、重度の後遺障害が現れます。
脊髄と体各所の神経との関係性は、脊髄損傷が負った個所から下の麻痺が起きるとイメージしてもらえばわかりやすく、首で脊髄損傷が起きれば首から下に、腰ならば腰から下に後遺障害が出ます。
反対に言うと、脊髄損傷が尾てい骨に近ければ近いほど、脊髄損傷の中では後遺障害が軽くなるということになります。
脊髄損傷には、脊髄がぷつりと切断される『完全脊髄損傷』と、脊髄の一部が損傷もしくは切断される『不完全脊髄損傷』があります。
不完全脊髄損傷の場合、完全脊髄損傷のように『首から尾てい骨までの間のどこを損傷したか』というほかに、『脊髄を輪切りで見た際にどこを損傷したか』が問題になります。
脊髄は脳と身体各所をつなぐ神経の通り道なのですが、脊髄の全ての中を神経信号が混ざって通っているのではありません。
1本に見える脊髄ですが輪切りにしてみると、脊髄のなかで感覚系伝導路と運動系伝導路がどのように作用しているか解剖学的に解明されており、「足で感じた温感は脊髄の外側の右、運動の信号は脊椎の内側の経路」という様に、様々な神経の経路が集まってできていることが分かります。
つまり、不完全脊髄損傷が軽微で神経伝達とあまり関係のない個所の受傷だったので、後遺障害が全くでないこともあれば、たまたま重要な神経伝達を担っていた個所だったので、全身麻痺が起こるということもありえます。
不完全脊髄損傷の場合、受傷個所がレントゲンやMRIなどで映りにくい個所であったため、「交通事故で足が麻痺していると言っているが、異常がないし詐病なのでは?」と、患者が疑われるケースもあります。
このような場合には、再度精密検査をしてもらうか、交通事故の受傷に詳しい病院で再検査をしてもらうとよいでしょう。
この記事を読まれた方にオススメの情報5選
脊髄損傷では麻痺がある部分に痛みやかゆみなどを感じる幻肢痛という症状が出ることが多くあるため、幻肢痛で日常生活に支障が出る場合にはその分を含めた損害賠償請求をした方が良い。
脊髄損傷でまれに上半身麻痺が起こることがある。珍しい症例のために脊髄損傷との因果関係に気付かない医師もおり、示談が不利になるケースもあるため、交通事故に詳しい弁護士に相談をするとよい。
交通事故が原因で脊髄損傷を負った場合、精度の高いMRI画像を撮影する、神経学的検査を受けるなどして、納得のいく後遺障害等級を認めてもらうべきである。
脊髄損傷では症状固定までに時間がかかることも多いが、後遺障害等級認定の際には、症状固定から示談まで2年の猶予があるので、無理に急がなくても良い。
脊髄損傷になったら、精度の高いMRI画像を撮影する、神経学的検査を受けるなどして後遺障害診断書に添付する証拠を集め、納得のいく後遺障害等級を認めてもらうのが望ましい。