むち打ちが原因でうつ病になったのに損害賠償が認められない
うつ病は『心の風邪』と呼ばれるほどポピュラーなもので、軽度なうつ病ならばほとんどの人が1度は罹患するとも言われています。
うつ病に罹患する原因の多くが、悩み事やストレスからと言われていますが、交通事故によるむち打ちが引き金となってうつ病となる人もいます。
日常的にむち打ちによる痛みや倦怠感があるのに加え、交通事故という非日常体験と加害者側との交渉、定期的な通院と、心を重くする要因が多々あるため、うつ病を発症するケースがあります。
交通事故によるむち打ちでうつ病を発症した場合、うつ病の分の治療費や慰謝料などがむち打ちの分とは別に支払われるかというと、判例からみるとかなり難しいと言えます。
そもそもむち打ちとは、可視化できるところに異常が見られないため、患者が「首が痛くて動かすことができない」と言っても、CTやMRIなどの医学的な画像証拠をそろえることが困難です。
また、事故直後からむち打ちを訴えて通院していても、医師から医学的なむち打ちの所見が出されず2カ月・3か月・半年と通院しても、『2週間~1か月でむち打ちは完治した』とみなされ、『うつ病の原因はむち打ちではない』とみなされることが多いからです。
日常の態度も裁判所の判断材料に
ある判例では、1年以上むち打ち症状を訴えていた交通事故の被害者が、うつ病も発症したとして相手方を訴えましたが、裁判所が退け敗訴したものがあります。
被害者は加害者側との話し合いがうまくいかず暴言を吐いたり、医師や看護師を信用せず言い争いとなったり、医学的な観点からもむち打ちの痛みなどの症状の訴えが誇大すぎるとされたためです。
上記の例は被害者に多くの問題点があった事例ではありますが、『医師から長期間むち打ちの症状がある』との診断がない場合には、うつ病が発症したとしても『むち打ちが原因である』と認められる可能性が低いと言えます。
中立な立場で見れば、『2週間ほどで痛みが治まったむち打ちが原因でうつ病になったので、働けなくなった1年間の給料などの損害賠償をしてください』と言われても、多くの方がその訴えには疑問を持つことと思います。
また、以前からうつ病を罹患しており、むち打ちによる治療期間が数日から数週間であるといった場合には、うつ病悪化の原因がむち打ちとは認められない、もしくは認められても微細なものであるとしか認定されないケースもあります。
交通事故以外でも、パワハラやDVなどでうつ病を発症した場合、その原因となったものの重大性や原因との関わり合いの期間が重視されます。
むち打ちは交通事故の中では治療期間が短期であるため、どうしても軽視されがちになるので、交通事故に精通した弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。
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むち打ちは、自分の健康保険を使って治療することができる。特に、被害者の過失割合が大きい場合は、健康保険による治療により、受け取る保険金が増えることがある。
交通事故によって負ったむち打ちの治療中に治療費を打ち切られた場合には、医師に治療の必要性を認めてもらい、弁護士を通じて加害者側と示談するとよい。
脳脊髄液減少症の新ガイドライン後は、正体不明のむち打ち症として治療や補償が受けられなかった交通事故のケースでも、補償が受けられる可能性が高まる。
交通事故のむち打ちが治療により悪化した場合には、加害者と医療機関側に対して損害賠償請求ができるが、一方に支払い能力がない場合には、もう一方に全額請求をすることができる。
交通事故によりむち打ちとなった場合、むち打ちが完治するまで治療を続けると治療費が増えるので、治療を終えるまでは損害賠償請求ができない。