歩行者が死亡事故に遭った場合の保険金や損害賠償請求
歩行者と自動車との死亡事故と聞くと、どうしても自動車側が悪いと思いがちですが、実際には自動車が一方的に悪いとは言い切れません。
愛媛県警が県下の事故を分析したところ、歩行者対自動車の交通事故で、なんらかの障害を負った場合は約40%、死亡事故では約80%が歩行者の道交法違反やルール違反が起因するものでした。
違反内容は「走行車両の直前・直後の横断」、「横断歩道外横断」、「信号無視」、「通行区分違反」、「踏切不注意」、「酩酊・徘徊(はいかい)・寝そべり」と様々です。
「左側を歩いていて目の前の信号が赤に変わったが、車も来ていないようだったので信号無視して横断歩道に入った」、「バスを降りた後、対向のお店に用事があったが、20m先の横断歩道を使うのが面倒で、降りたバスの前を通って車道を横切ろうとして走行中の自動車にはねられた」など、意外と見かける行為が死亡事故に結びついています。
日本の道路交通法は歩行者を厚く保護しているため、一見すると歩行者に全面的な非があるように思える死亡事故でも、実際には自動車の運転手への過失が問われます。
そのため、「死亡事故に遭っても歩行者は優遇されているので、歩行者が悪い場合でも保険金を支払ってくれるはず」と思い込んでいる人が多いです。
しかし、示談となった際に保険金がもらえるどころか、損害賠償金を支払わなくてはいけないといったケースもあります。
過失相殺の大きな壁
死亡事故の場合、死亡慰謝料や逸失利益などを含めて自賠責保険からは最高3000万円まで支払われます。
しかし、自賠責保険も無制限に保険金を支払うわけではなく、
死亡事故の過失割合が70%未満ならば満額、
70以上80%未満ならば2割減、
80以上90%未満ならば3割減、
90以上100%未満ならば5割減となります。
つまり、死亡事故と言えども歩行者の過失が90%ならば、自賠責保険から支払われるのは1500万円が上限となります。
あくまでこれは上限の話であり、死亡事故に遭った歩行者が高齢の年金受給者であったり、無職であったりする場合には、逸失利益は認められない、もしくは極めて低額になるため、死亡保険金が1000万円以下の試算となり、さらに過失分を引かれてしまうと死亡事故でも500万円以下となることもあり得ます。
「それでも、500万円も自賠責保険からもらえれば良いのでは?」と考えるかもしれませんが、交通事故ではいくら死亡事故の歩行者とはいえ過失がある限り、相手方への補償をしなければいけません。
もし、先程のように過失が90%であれば、自動車の運転手が被った被害の90%は補償しなければいけません。
仮に、自動車の運転手の治療費や休業補償、自動車の修理費などが800万円かかったとしたら、800万円の90%の720万円を相手方に支払わなければいけません。
そうなると、自賠責保険から支払われる500万円では足りず、「死亡事故の被害者の遺産から支払う」「死亡事故の法定相続人が代わりに支払う」「相続放棄をして故人の遺産を引き継がない代わりに、損害賠償責任も免れる」の3択になります。
このようなケースもあるため、歩行者の死亡事故だからと思って安心していると、莫大な損害賠償請求をされる可能性もあるため、注意が必要です。
この記事を読まれた方にオススメの情報5選
死亡事故によって残された遺族は高額な保険金を受け取ると、相続問題や金銭問題が発生する事が多いため、それを予防するためにも事前に弁護士に相談しておく方が良い。
家族が死亡事故に遭った際の弁護士費用には、着手金と成功報酬が含まれる。成功報酬を払っても、賠償金が増額されれば、依頼人にとって大きな経済的利益となるため、まずは弁護士へ相談するのが望ましい。
死亡事故の遺族に対する慰謝料の支払いの範囲は、支払われる親族の範囲は、両親(養父母を含む)・配偶者・子になり、金額もさほど多くない。
死亡事故と言えども、過失割合や損害賠償額によっては、死亡した側の損害賠償額が大きくなり、遺族に支払い義務がのしかかるケースもある。
自営の経営者が死亡事故に遭い、逸失利益を計算する際に、元となる収入を証明する事が困難となる事がある。特に家族経営で給与が曖昧になっている場合には、経営に対する給与の割合を算出する必要がある。